23区で公園面積ワースト2の中野区における「遊育」の可能性 ——こども環境学会「2020年ポスターセッション」に参加しました——

中野区子どもの「遊び場・居場所」調査

「子どもの遊び場・居場所」は中野・生活者ネットワーク(中野ネット)の主要な活動テーマのひとつです。都市部でも子どもたちがのびのびと遊べるようにと、メンバーが区内で唯一の冒険遊び場・プレーパークを15年以上実践しています。
2018年には、区民の皆さんと一緒に「中野っ子のびのびプロジェクト」を立ち上げ、遊び場と居場所についてのアンケート、ヒアリング調査を行ない、19年4月には、調査報告シンポジウムを開催、8月に調査結果報告書を発行しました。

 

 

 

 

新型コロナで大会が中止に

「こども環境学研究」表紙。A4判、145ページ。

「こども環境学会」は、こども達が心身ともに元気に成育できる環境の実現に向けて活動している団体です。
7月に長野県茅野市で開催予定であった「こども環境学会2020年大会」のポスターセッションに参加すべく、調査報告の要旨を提出し採択されました。大会で発表するために準備を進めていましたが、残念ながら本年の大会は新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止となりました。この度発表予定だった調査報告の概要が「こども環境学会研究」に掲載されましたので報告します。

中野ネットは子どもの遊び場・居場所として公園の必要性・重要性、遊具や広場などの質の高さ、そして子どもが自らの責任で自由に遊ぶプレーパークに注目して活動しています。私たちはコロナウイルス禍の学校休業、緊急事態宣言、外出自粛を強いられた半年余り、多様な年代の大勢の人びとが心豊かに過ごすことができ、都市環境の過密を緩和する公園が中野区に不足していることを実感しました。今後は公園の持つ多面性にも注目しつつ活動していきます。

 

「こども環境学研究」85ページに掲載された調査報告の概要

1、調査実施に至る背景

中野区は都立公園(概ね10ha以上)がなく、23区の中で1人当りの公園面積がワースト2の区である。公園では禁止事項が多く、路地や空き地もほとんどなく、子どもたちが自由に遊べる空間は少ない。また、かつて小学校区に各1館設置されていた児童館も、プロジェクト発足時の2018年6月には区が全廃の方針だったため廃館となった児童館もあり、保護者や子育て支援に関わる地域住民を中心に、児童館存続を求める声が大きくなっていた。
さらに、この頃には大きな社会問題となっていた待機児童問題をきっかけに乳幼児、学齢期の子どもをもつ保護者がSNSでつながり、遊び場・居場所についても情報交換を行い、区内には安心して子どもたちを遊ばせる場所が少ないという問題も共有されてきた。

2、調査の目的

子どもの遊び場・居場所の環境が整っていない中野区において、子どもの成長にとって不可欠な「遊び」の体験を存分にできる環境づくり、どの子にも居場所がある地域づくりのために、子どもの遊び場・居場所に関する調査を実施した。目的は、①中野区への政策提案につなげる、②市民自らが地域に必要な遊び場・居場所をつくる市民自治活動を醸成する、ことである。

3、調査の概要

○調査名:中野区子どもの「遊び場・居場所」調査
○実施期間:2018年10月〜12月
○調査対象:区内在住の子ども(0歳〜18歳)及び区内居住の保護者
○調査内容:よく行く遊び場・居場所、その理由、行かない理由、ほしい遊び場・居場所など
○調査方法:①調査票による実態・意向調査 ②WEBサイトでのアンケート ③グループヒアリング(小・中学生、母親、父親)
○回収結果:保護者327 小学生〜18歳192 総数519

*調査終了後の2019年4月、記念シンポジウム「子どもの根っこは遊びで育つ」を開催した。

4、調査でわかったこと

①区内の公園は遊具が古く、魅力がない
②近隣区の公園やプレーパークに遊びに行っている
③区内の児童館は日曜休館のため、近隣区の児童館を利用している
④雨の日、熱中症が心配な夏などに、屋内で遊べる場所がない
⑤中高生世代の居場所がないに等しい など

上記①〜⑤は想定していたものだが、自転車の初乗り練習をする場所がない、自習スペースがほしいなど、調査によって認識できた実態もあった。
他にも、区の情報提供のあり方、遊び場や居場所で保護者が気軽に相談できる人材の配置、多世代交流ができる施設を求めるものなど、子育て世代の置かれた現状が感じ取れる回答があり、親への支援の必要性についても考えさせられる結果となった。

5、中野区に政策提案

調査結果をもとにプロジェクトメンバーで中野区への政策提案をまとめ、2019年9月、7項目からなる27の提案を中野区に提出した。これにより目的①は達成した(但し、提案内容の反映状況については今後もチェックしていく)。

6、今後の展開

中野区には現在、プレーパークは1か所(月4回)しかなく、調査でもプレーパーク設置を求める回答は複数あった。プロジェクトメンバーの中にプレーパークを開設したいという保護者がいることもあり、今後は目的②に向けたアクション編として、地域の中に住民主体で遊び場・居場所をつくっていくことが目標だ。

*「遊育」天野秀昭さん(日本プレイワーク協会理事)の言葉。『教育』は『教え育てる』で主体が教える側であるのに対し、『遊育』は『遊び育つ』子どもが主体。