環境先進都市のお手本、米国オレゴン州ポートランド市

中野・生活者ネットワークは、細野かよこを候補に立て本年4月の中野区区議会議員選挙に挑戦しました。選挙のスローガンでは「介護・子育て・環境に全力!」、「中野を福祉と環境の先進区へ!」を掲げました。私たちは、政策作りを通して「福祉と環境」が社会の中で人びとが不足なく健康に暮らすために最低限必要な条件であると再認識しています。細野かよこは4月から区議会議員として福祉と環境に取り組んでいます。

中野ネットの政策作りの中で、筆者は特に環境とまちづくりを担当しています。「環境の先進都市」のお手本の一つ、米国オレゴン州ポートランド市を7月に訪問しましたので報告します。

ポートランド市は自然環境に恵まれた全米でも最も人気のある都市です。しかし環境先進都市と呼ぶのはオレゴン州と同市が徹底した市民参加により培ってきた環境保全の方針にあります。同市の市民参加は、1950年代に全米で広がっていた都市再開発による弊害を克服する中で醸成されたものです。市民活動の成果は、まちと河川を分断していた高速道路を廃止した跡地の大きな公園や、歴史的意義を持つ土地におこった商業施設計画を覆して作った「市民のリビングルーム」と親しまれる広場など市内に点在しています。

ポートランド市の市民参加の成果

市民活動の成果は、環境政策づくりの民主的な手続きにも根付いています。例えば、オレゴン州では「土地保全」を重視して、土地利用には厳しい自然環境への配慮が求められます。最も特徴的なことの一つがLand Use Board of Appeal (LUBA・ルーバ)という土地利用に特化した法制度です。市民がLUBAに都市計画や建設計画の見直しを訴えると、その計画は一時停止してLUBAの再審査を受けなければなりません。また、LUBAはPlanning Committee (計画委員会・日本の都市計画審議会に当たる)の委員の選出に当たって幅広い分野の市民参加を保証する一方で、建設業者、不動産業者など利害関係者の参加を制限しています。(もし日本にLUBAのような見直しの仕組みがあれば、大量の樹木を伐採する神宮外苑の開発計画は起こらないし、中野駅周辺一帯も今とは異なる景観が出現していたのではないでしょうか。)

グリーンインフラに力を入れるポートランド市

最近のポートランド市の環境施策は、保全より積極的な修復へ、言い換えれば本格的なグリーンインフラ作りへと進化しているようです。合流式下水道による河川の汚濁はポートランド市においても長年の課題でしたが、最近では雨水の下水道への流入をさせない工夫(レイン・ガーデンやバイオスウエール)を施しています。レイン・ガーデン(雨庭とも言います)は、公園やプライベートな庭園内につくる、雨水を一時的に貯留し、ゆっくりと地中に浸透させる構造を持つ植栽空間です。また、バイオスウエールは生物低湿地とも言います。仕組みは道路、舗道、駐車場の土地の勾配を利用して雨水を集めます。周辺よりも一段低くした植栽に雨水が流れこみます。植栽の下には深さ70㎝ほどの砂利層を設けてあり、雨水を地下へ浸透させます。バイオスウエールは地上にあるので雨水の流れと浸透する仕組みを理解しやすく、植栽には地域に自生する樹木や植物が用いることで自然の趣が生まれます。

他に、積極的に緑化、緑地保全を推進するために土地所有者にはグリーン免税というインセンティブがあります。

さらに生ごみのコンポスト化にも取り組んでいます。同市はコンポスト化の効用、すなわち①生ごみを減量する、②有機物を循環する、③土壌を改良する、したがって④保水力を高める、⑤緑を豊かにする、⑥雨水対策にもなる……という好循環を市民に周知して協力を求めてきました。

このように環境先進都市ポートランド市には中野区にも取り入れてほしいグリーンインフラの政策がたくさんあるのです。

全米の都市を襲った暴動の影響

しかし、4年ぶりに訪れたポートランド市では残念なこともありました。以前は緑と花々で彩られ魅力にあふれていた中心市街地の荒廃が目につきました。空き店舗が多く、辻々に複数人の路上生活者が佇み、花壇やストリートファニチャーは手入れがされていません。聞くところによると、長引くコロナ禍による経済的停滞に加えて、全米の都市を襲った二つの暴動の影響をポートランド市も強く受けていたとのことでした。(一つは2020年8月ブラック・ライブス・マターの平和的抗議デモに端を発して一部の過激な人たちが起こしたもので、もう一つは2021年1月の米国大統領選挙がらみの抗議デモから発展してポートランド市の民主党ビルも襲撃されたということでした。)コロナ禍と二つ目の暴動の影響は、2年半を経過した今も色濃く残っていました。

今回のポートランド市での経験を通して、都市は一瞬たりともたちとどまらず、良くも悪くもさまざまな影響を受けて変化し続けるということを実感しました。

ポートランド市のグリーンインフラの充実ぶりは、長年の市民参加による環境政策の成果です。一方で中心市街地の荒廃は、暴動という社会現象によるという見方もできますし、外部からの意図的な圧力という見方もできます。

ポートランド市はきっとパワフルな市民参加で現状の困難を乗り越えていくものと期待を込めて願っています。

加藤まさみ

 

コンベンションセンター周囲のレインガーデン

市民が理解できるように説明看板がついている