不足している市民の声 〜外環道陥没事故から考える都市計画と市民参加

大深度利用の工事が影響している陥没事故

本ホームページ1月16日付トピックスで「住宅地陥没! 東京外環道路事業・工事の中止を求める署名」をご紹介しました。今回は、陥没事故から、大深度利用を都市計画と市民参加の視点で考えます。

調布市つつじが丘の住宅街に起きた陥没事故(2020年10月18日)は、その後の調査結果で大深度利用による外環道工事が影響しているという報告がありました。

陥没事故の詳細は事業者の調査報告pdf.pdf (e-nexco.co.jp)
事業者の調査報告時の質疑応答pdf.pdf (e-nexco.co.jp)
外環道沿道市民グループの活動外環ネット (gaikan.net)

大深度利用とは

大深度利用は、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度法 2012年)大深度地下利用:大深度地下とは – 国土交通省 (mlit.go.jp)に基づき、政令で定めた三大都市圏(首都圏・中部・近畿)内の人口が集中する地域の公共事業(道路、鉄道、河川、水道、ガス、電気、通信など)で認められています。首都圏では図1の示す範囲です。大深度地下利用:大深度地下の公共的使用に関する特別措置法の概要(対象地域・認可の主な手続き) – 国土交通省 (mlit.go.jp)

【図1】大深度地下利用の対象地域(国土交通省公式サイトより)

地下40mより深い大深度を利用する理由は、地上は人口過密な市街地で地域住民の理解が得にくく用地取得が困難であること、さらに技術的に可能になったことがあります。外環道は国と都、市区、事業者が技術的に問題ないと確信して、地域住民の理解を得て都市計画決定されたはずでした。

例外規制の多い都市計画〜都市計画決定手続きの仕組み

公共事業は都市計画法に基づく「都市計画決定手続き」を経て法定(法的根拠をもつ)都市計画になります。公共事業は地域住民に影響(迷惑)がおよび、土地所有者の私権を制限することから度々反対運動、地域紛争が起きてきました。問題を回避するための手続きには市民参加(当事者である住民が意見を述べるなど)の機会があります。けれども決定された計画は市民との十分な合意形成がなされていない(市民側は納得しているとは限らない)ように見えます。

一般市民にとって都市計画は専門性が高いうえ、例外を多く含むことから難解です。都市計画決定は幅広い裁量権を持つ都知事と市区町村長に権限が集中しており、計画を作る行政(計画主体)は作ろうとする計画が可能になる例外規制を作り、計画の是非を問う都市計画審議会を運営しています。市民側からは、公共事業の影響を最も受ける地域住民の手の届かないところで計画が作られているように見えます。

技術的工学的課題が十分にクリアされているか疑問が残る場合もあります。例えば杉並区都市計画審議会(2006年12月)で外環道計画の審議で一専門委員が事前調査の信頼性に関する質問をしたのに対して、担当者は技術的に問題ないと述べるばかりで信頼性は示されないままでした。(2000年代は都市計画審議会のあり方に疑問をもって各区の審議会を傍聴しました。上記記述は当時の議事録を参照しています。)

大深度地下利用は、地中の環境破壊でもある

外環道陥没事故から見える都市計画の問題は、
工学技術への過信、
計画段階での市民参加の不足、
東京(あるいは日本)の都市計画そのものの方向
です。

そもそも大深度地下利用は、目に見えない地中の環境破壊でもあります。大深度地下の利用は本当に必要なのでしょうか。外環道の開通は経済活動に欠かせない、交通の利便性があがるという意見があります。しかし、陥没事故は地域のみなさん、外環道計画沿道のみなさんにとってまさに生活の地盤を揺るがす深刻な事態です。

大深度地下掘削工事は首都圏各地(中野区内)で地下鉄や地下調節池で行なわれており、決して他人ごとではありません。(2020年には、国土交通省がリニア新幹線の大深度トンネル建設の許可をだしており、大深度利用は広域の問題になっています。)

利便性、経済性の追求から、命と健康と環境を大切にする都市計画への転換を

都市化は人口増加、技術革新と経済発展が相まって東京を周縁へと広げ、自然を喪失し、建物を高度化し、更に地下深くまで及んでいます。都市計画は東京の拡大と集積を促進してきましたが、都市の適正規模を保ち市民の平穏な生活を守る視点を欠いてきました。外環道陥没事故は都市計画が利便性、経済性を追求してきた帰結と言えます。

コロナ禍がつづく今、私たちは東京の過密な都市環境の中で三密を避け、新しい日常生活の習得を求められています。しかし長期的に見てウイズコロナは人的努力だけで克服はできないでしょう。

コロナ禍と外環道陥没事故は、大深度利用や都市の際限のない拡大を見直し、人びとの命と健康と環境を大切にする都市計画の必要性を警鐘しています。そして人びとを大切にする都市計画には市民の声を届ける市民参加が重要です。市民参加は生活者ネットワークが目指す「市民自治」の第一歩です。(加藤)

*「住宅地陥没! 東京外環道路事業・工事の中止を求める署名」は2月10日まで延長されました。署名用紙はホームページからどうぞhttp://gaikannet.sakura.ne.jp/sblo_files/gaikan/image/20210210_Kanbotsu-StopGaikan-Syomeiyoushi2.pdf