酷暑の夏に温暖化・気候変動・気候危機を考える

日本で私たちは今夏も酷暑と大雨の異常気象を体験しています。世界を見渡せば極地や高地の氷河が解け、砂漠化が進み、森林火災が起き、50℃に迫る熱波にさらされている地域もあります。今日の気候状態は危機に近づいているのではなく、すでに危機の最中にあって進行しているといえます。

人的影響を疑う余地もない ~IPCC第6次報告書~

IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書(8月9日)は気候の現状を、人的影響を疑う余地もないと初めて断定しました。そして、気候システム全般の最近の変化と規模、気候システムの側面の現在の状態は、何千年にわたり前例がない、世界中のすべての地域が、多くの気象と気候の極端現象の影響を受けている、産業革命前から平均気温が1.5℃上昇する期間の予測を2021年から2050年としていたのを10年早めて2040年にしています。20210809001-1.pdf (meti.go.jp)(日経新聞8月10日朝刊1面,3面)

1.5℃の温度差をわずかと考える方もいるかもしれません。しかし、ひと(平均体温37℃)が快適に過ごせる気温の幅はわずかです(摂氏20度から27度程度で湿度や風の強弱に多少の変化をします)。人類は冷暖房など創意工夫をして快適に生息できる範囲を極地や宇宙にまで広げてきました。が、その過程で温室効果ガスを排出しつづけて、結果として温暖化で地球上の快適に過ごせる空間を狭めてきたといえます。

都市は自然環境が衰退して人工物で埋め尽くされている

人工物で埋め尽くされた都市.中野中央部の高層ビルから新宿方向を臨む

「温暖化など起こっていない」という人に伝えたい

IPCCの報告は遅きに失した感がありますが、人的要因と断定したことで、「温暖化などは起こっていない」という主張に対して何らかの効果を期待したいです。最も伝えたいのは、米国の先の大統領や宇宙旅行を観光業にしようとしている超富裕層です。(日経新聞8月18日朝刊12面及びサステナブルじゃない! 高価な宇宙旅行は大量の二酸化炭素を排出する | Business Insider Japan)滞在10分間の宇宙旅行にかかる一人当たりの環境への負荷(二酸化炭素排出、成層圏の破壊など)は少ないわけがありません。(彼らの行為は、楽しみのために野生動物を絶滅及び絶滅危惧種に追いやったハンティングと似ていませんか?)早期に観光宇宙旅行が国際的に制限されるように期待します。

気候操作で温暖化を防ぐ方法?

一方、米国ハーバード大学を中心に進めているプロジェクトでは、高度20kmの成層圏に炭酸カルシウムの粉末を巨大な日傘状に拡げて「地球に照り付ける太陽光の一部を遮ろう」という研究があります。このプロジェクトにはマイクロソフトの創始者ビル・ゲーツ氏も出資するとのこと(日経新聞8月15日26面)。ほかにも気候操作をすることで温暖化を防ぐ方法が研究されているそうです。科学技術により大規模に課題を解決しようという考え方は、温暖化をもたらした産業革命以降、利便性と豊かな生活を求めてきた方法と似ています。善意のプロジェクトであるとしても、太陽光を遮ることによる大規模な環境汚染や生態系への悪影響はないのでしょうか。このプロジェクトは地上の広範囲に生息する動植物すべてが利害関係者といえます。

「人新生」という地球史の時代

現在、温暖化回避の対策は二酸化炭素の排出抑制に集中しています。けれども二酸化炭素を出さないので原子力発電を使おうという考え方が再浮上しているように炭素以外の問題を見落としかねません。気候危機の解決には、直近の課題への対処療法を取らざるを得ないとしても、そもそも温暖化現象の根本原因である日本を含む西洋型近代文明の見直しと修復への長期的な視点が不可欠です。オゾン層破壊の研究でノーベル化学賞を受賞した故パウル・クルッツェンは、現在の地球を産業革命以降の人類の痕跡が明らかなことから地球史的に「人新生 ひとしんせい」と名付けました。

ベストセラー『人新生の「資本論」』(斎藤幸平著)では「人新生」を人類が地球を破壊しつくす時代としています。著者はマイボトル、マイバッグ、ハイブリッドカーなどは環境配慮の免罪符にすぎず、国連が提唱する「SDG‘s持続可能な開発」をアリバイ作りにすぎないと述べています。そして晩年のマルクス思想を掘り起こして、コモンズという考え方の重要性を説き、脱成長経済を提示しています。現状を変えるためにはどうするか、「人新生」をキーワードに、新しい個々人のライフスタイル、経済の在り方、都市政策、行政の考え方についての議論が始まることに期待しています。

4月に中野・コンポストの会の依頼を受けて「気候変動」について「気候変動がわたしたちの生活に及ぼす影響・わたしたちの生活が地球環境に及ぼす影響」と題してお話をしました。とても大きなテーマなので、少しずつ分けて紹介していきたいと考えています。(代表・加藤まさみ)

都市河川はコンクリートで固められいる。野方から沼袋

落合水再生センター

開発中の中野セントラルパーク