日時 10月15日(土)13:3015:00  於 中野区桃園区民活動センター1F

講師: 加藤茂孝 理学博士、保健科学研究所・学術顧問

(元・国立感染症研究所室長、元・米国ODC客員研究員、元・理研チームリーダー)

新型コロナウイルスCOVID-19発生(201912月)から3年がたとうとしています。コロナウイルスは変異しつつ感染拡大・縮小を繰り返し、第8波到来が現実のものになろうとしています。10月のオープンオフィスデイは、改めて「新型コロナのこれまでとこれから」を感染症研究者の加藤茂孝先生からお聞きしました。

内容:(1)コロナの歴史

(2)ワクチン

(3)これから?

(1)コロナの歴史

加藤先生のお話は、人の一生を描いたポール・ゴーギャンの「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこにいくのか」(ボストン美術館所蔵)から始まりました。タイトルは、死生観や人類の歴史と、さらにはコロナウイルスが「どこで始まり、どのようなもので、どのように収束するのか」という疑問にも当てはまります。

我が国民の主な死因は、1950年を境に以前の感染症から抗生物質が普及したことで生活習慣病へと変わりました。歴史的な感染症では1920年前後に猛威を振るったスペイン風邪がありました。

感染症でリスク管理の対象となる「新興感染症」(新しいタイプの感染症)は1970年代から多数発症しています。感染源は、以前は菌でしたが、最近はウイルスが増えています。

コロナウイルスはこれまでに馬、牛、猫、イルカ、蝙蝠、ネズミ、イヌ、鶏、豚、ヒトから見つかっています。ヒトには7種類(風邪コロナ4種類、肺炎コロナ3種類)があります。

下の表は、肺炎コロナのサーズ(SARS,マーズ(MERS,新型コロナウイルス(COVID- 19) の情報を加藤先生のお話から表にまとめたものです。

SARSMERSCOVID-19の特長は、①蝙蝠から動物を介してヒトに感染したと考えられる、②感染拡大した理由は、発生源の地域行政が専門家の提言を受け入れず対応が遅れた、②感染症発生情報を持たない感染者の移動により飛び火が起こった、④飛び火した先での患者の致死率が高い傾向があります。

COVID-19は蝙蝠からセンザンコウ(中国の市場で食用として売られている)を介してヒトに感染したと考えられています。中国湖北省で発生して世界191か国に飛び火、202112月時点の患者数9086万人、死者194万人、致死率2.19%とSARSMERSに比べて致死率は低いものの影響は桁違いです。中国政府は李文亮医師の警鐘に対応せず感染拡大を許しました。教訓として①政府対応の遅れと②WHO対応の遅れが指摘されています。

新型コロナウイルス感染症は発症(発熱、疲労感、咳など)のあとに多様な後遺症が残り長引く傾向があります。

新型コロナウイルスがもたらす感染症として次の3つがあります。

  1. 生理学的な感染症、疾病
  2. 心理的感染症、不安や恐怖
  3. 社会的感染症、嫌悪・差別・偏見

過去2年間に世界中(特に東南アジアとアフリカ)で1千万人以上が孤児になっています。

(2)ワクチンについて

ワクチンは以下の5種類があります、

弱毒性ワクチン(はしか、風疹)

不活化ワクチン(現行のポリオ)

成分ワクチン(インフルエンザ)

ウイルス用粒子ワクチン(HPV

交差ワクチン(種痘)

新型コロナのために開発されたワクチン(8種類が紹介された)の中で日本はウイルスベクターワクチンと主にRNAワクチンを導入しました。新型コロナ発生から10ヶ月でワクチンが開発されたことは画期的な早さといえます。

 ワクチンの副反応と効果について

厚生労働省が認定したワクチン接種と副反応との関係では

女性:特に2050代のアナフィラキシー、

男性:10代、20代で心筋炎、心膜炎。

カナダの調査によると、ワクチンによる死亡数低減効果はワクチン3回接種で死亡率がどの世代でも低減しています。全世代で新型コロナの死亡患者数はインフルエンザによるものよりも多いです。

追加接種の効果は高いが、加藤先生は、はじめて承認されたワクチンの場合、副反応効果を確認してから打っているそうです。

(3)「これから?」

新型コロナウイルスの対策は長いトンネルの先に出口の明かりが見えてきけれども、まだ出口までの距離は不明という状況です。

これまで(第1波から第7波)の死亡患者数と致死率は第4波(1.85%)をピークに下がり第7波(0.11%)に至っています。今後、第8波の可能性も否定できません。

加藤先生の予測するシナリオでは、COVID-19は「肺炎ウイルス」から「風邪ウイルス」に代わり、インフルエンザ同様、毎年ワクチンを打つことになりそうです。

今後の感染症に備えるには、①市民が意識を持つことと②対応できる組織をつくる必要があります。21世紀の日本は、2009年に北米で発生し世界に広がった新型インフルエンザの経験しかなく、感染症への備えが十分ではなかったといえます。

 今後も、新興感染症は絶えず、人類と共にある、ヒトの感染症は動物からもたらされると考えられます。OIE(国際獣疫事務局)によると少なくとも75%は人獣共通感染症です。

蝙蝠→ エボラ、マールフルグ、SARSMERS, 狂犬病、牛疫→麻疹

サル→ HIV/AIDS、マラリア

ネズミ→ラッサ熱、HFRS、天然痘(ペスト、ネズミノミ)

最後に

コロナが日本に突き付けた問題は、

  1. 生死感 どう生きるのが幸せか
  2. 人口問題 これまでは若者が高齢者を支えてきたが、少子化が進んでいる。若者への社会的支援を。移民(難民を受け入れない、労働力としては受け入れている)

そして感染症に備えるためには、

  1. 正しい情報発信
  2. リスクマネージメント(常に備える)→恒常的な調査研究・対策立案組織
  3. 不安を減らすリーダーシップ(明確な方針提示)→情報発信への信頼性
  4. 政治が科学の上に立ってはいけない→最終的には政治家が決断するが、科学的な基盤を持つことが、重要です。

~参加者の感想~

・加藤先生はリタイア後、科学と社会をつなぐ活動をされている、その姿勢に感動した。

・国、行政の情報開示の在り方の課題を指摘された。

・コロナウイルスによる感染症は今後も起こりうる。ウイズ・コロナの心構えがいる。

・私たち市民の側はCOVID-19(現象)を正しく理解することでむやみに怖れるのではなく、正しく備えることが大切である。

・感染防止の観点からワクチンは有効である。

~参加者からの質問~

Q帯状疱疹のワクチンはしたほうがよいか?

A子どものころ水疱瘡をした人はウイルスを体内にもっているので大人になってストレス、疲労、免疫力の低下した時に帯状疱疹にかかる。成人への水疱瘡ワクチンは帯状疱疹を防ぐ効果がある。

Q私たちにできる予防対策は?

Aマスク、手洗い、三密も有効である。

特に、マスク着用はTPOをわきまえて次のことを注意する。

〇レストランでは席に着き、料理が来るまでマスクを外さない。

〇話しながらの会食、特に飲酒により大声・多声で感染の可能性が高くなる。

〇マスクをかけていても鼻を出したり、あごにかけたりでは意味がない。マスクは臨機応変に。野外で密度の低い場合は外し、屋内では着用するなど。

〇真夏の野外運動では感染よりも熱中症の方が危険、マスクをしての運動は避けるべき。

手洗いの重要性について

〇手は、さまざまなものを触ったうえで顔、鼻、口に触れるので感冒などの感染防止には手洗いは有効。

感染症について詳しくは加藤茂孝先生の著書にあります。

『人類と感染症の歴史 —未知なる恐怖を超えて―』丸善出版 2,200

『続・人類と感染症の歴史 —新たな恐怖に備える―』丸善出版 2,200

丸善出版のホームページもご参照ください。

『人類と感染症の歴史』の著者 加藤茂孝先生が、ラジオNIKKEIにご出演! 丸善出版 理工・医学・人文社会科学の専門書出版社 (maruzen-publishing.co.jp)